※本記事は「推薦状ブレイクダウン|合格のための青写真(1/2)-概念設計編」の続きです。

このコーナーは日本一倍率の高い就職先(対象者の専攻する分野のなかで)に提出する推薦状を依頼されたKATOHがどうやって足を引っ張らない推薦状を工夫してかいたか、仕掛けたトリックを明かしていきたいと思います。就職活動をしている皆さんの参考になれば幸いです。

前回の記事ではミッション定義と要求出しをしてきました。これらの作業はとても重要なのですが、正直「そんな観念的なことはいいからさっさと役に立つ内容を書けよ」というのも最もな話です。今回はミッションと要求を実際の文章に実装していく方法を書きたいと思います。

Contents

まずは前回定義したミッションと要求をおさらい

ミッション

  1. 社会的地位のない人物が書いた推薦状単体で、彼の評価の向上に一定の効果を発揮すること
  2. 面接時の効果的なコミュニケーションをサポートするためのインプットとなること

要求

要求1:推薦状を読み終わるまで面接官の集中力を維持するための工夫をする

要求2:推薦状の内容から想起させるイメージを固定する

要求3:トップレベルの研究者に刺さるストーリーにする

これらをもとにストーリーを設計していきます。

ストーリー

ストーリー展開のフレームワークには、起承転結やSDM(summary ditail summery)など、さまざまなものがありますが、今回使用するのは、Three Act Structure(三幕構成)です。これは映画の脚本の構成として体系化されたものです。Three-act structureでは、ストーリーは3つのAct (幕) から構成され、それぞれの幕は設定 (Set-up)、対立 (Confrontation)、解決 (Resolution) の役割を持ち、3つの幕の比は1:2:1とされています。詳細な説明はWikipedia をご覧ください。このフレームワークは端的にいうと映画が観客を引きつけるための技です。今回の要求の一つが、「要求1:推薦状を読み終わるまで面接官の集中力を維持するための工夫をする」であることを考えて、数あるフレームワークの中でも映画の脚本として採用されている三幕構成を採用します。

ミッション1の実装

まず、ミッション1が最大の難関です。医師や研究者としての経験が皆無である私が、ツアコンの医師や研究者としての素質について断定したところでなんの説得力もありません。たとえ伝えるメッセージ自体が妥当であったとしても、私が推薦状にAuthorityを与えようとすることとで、読み手(面接官)は私のAuthority自体に疑問を持つでしょう。そもそも私の権威をどうにかして補完するエピソード作ったとして、読み手の解釈に起因する不確実性を増やしてしまうことで、ミッションの成功に対するリスクにしかなりません。

したがって今回は、身近な観察者として彼に関する情報を説得力ある形で提供し、彼が素質があるかどうかについては、読み手にゆだねることにしました。人間は誰かの主張を受け入れる際は疑ってかかるものですが、自分が思いついたことの検証は幾分甘くなります。映画インセプションもこれをテーマの一つにしていますね。

今回観察者として提供する情報は、彼の計画性と判断力です。計画性はプロジェクトを実行する際に重要なのは自明です。大学時代に私に宇宙工学を教えてくれた教授も「宇宙のプロジェクトの成功可否を分けるのはプロジェクトマネジメントである」と言っていました。少々大胆なロジックですが、宇宙開発で重要なことは他の研究分野でも重要なはずです。また、医師は科学者でもあります。科学者として重要なことは、「客観的事実に基づき、確からしい判断を下す」ことです。

ストーリー骨子1: 計画性と判断力をメッセージとする

今回のストーリーでは計画性についてAct 1 (Set-up)にて、判断力についてAct 2(Confrontation)にて訴求することにします。

ミッション2

ミッション2は重要です。今回は特にツアコンとしての経験を元に意味のある会話を展開するために、EPCという得体のしれない団体の活動をわかりやすく説明し、面接においては不要なコミュニケーションをスキップして本質的な議論ができるようにしなければなりません。

ストーリー骨子2: 推薦状全体を通してEPCでの我々の活動をイメージしてもらう

そもそも我々はなぜEPCの活動を元に、面接を挑もうとしたのでしょうか。もちろんツアコンはEPC以外にも大学で研究なども行なっており、下手すればただの遊びと捉えられない旅行を訴求するのは馬鹿げている気もします。しかしEPCの活動(海外自転車旅行)を計画し実行するためには、一定の能力が必要だと考えているからです。我々は旅行会社を使用することなく、航空券や宿を調達しなければなりません。また、自転車旅行であるため、一般的な旅行ガイドをなぞる訳にもいかず、さまざまな情報源を元にオリジナルのコースを選定しなければいけないし、体力や法規制などの制約も考慮しています。これらの特徴が普通の大学生の旅行とは一線を画すを考えているからです。敢えて文字化するといささか傲慢な勘違い野郎な気もしますが、事実なので仕方ありません。

したがって、EPCの活動について説明足らずで「ただの旅行やん」と面接官に思われてしまえば全ての計画が無に帰すことになり、ツアコンは中堅の就職先に甘んじプライドと現実の認知的不協和に悩みながら残りの人生を過ごすことになるのです。

つまりEPC の活動説明では「要求2: 推薦状の内容から想起させるイメージを固定する」を達成することが必須です。これを踏まえて次のAct 1 の設計に進みましょう。

Act 1 Setupの設計

脚本におけるSetupの役割はインキャラクターを固めるための説明です。彼らはどのようなキャラクターか、彼ら同士はどのような関係か、彼らが何をするストーリーか、彼らの住む世界はどのようなものか、といったことが第一幕で設定され、脚本に置いて最も重要な幕とされています。これに失敗すると、Act 2以降で観客が感情移入できなくなり、集中することをやめてしまいます。これは要求1の達成にも重要です。

読み手がストーリーに触れた時、まずは自分の身近な人や物を思い浮かべます。「あるところに一人の少女がいました」とか「おじいさんとおばあさんが住んでいました」とかです。これをイメージアンカー(想像の錨)といい、読み手はストーリーを読み進めながら新たに得る情報を付加していきながら、キャラクターや世界観を詳細化していきます。前章で述べたとおり今回のストーリー骨子はEPCの具体化です。EPCは「彼ら同士はどのような関係か」もしくは「彼らの住む世界はどのようなものか」に当たるため、まずは推薦者と被推薦者の関係性の説明から始めます。以上よりイメージアンカーを「彼とは近所の1級河川にて釣りやキャンプをしながら共に成長してきました。」としました、面接官は「幼い頃に一緒に遊んでいたものの自分は医者になり、彼は専門学校に行き住む世界と価値観のずれから疎遠になった幼馴染」や映画「Stand by Me」のキャラクターなどを想像するでしょう。そこから情報を付加していきます。以下の図は各Actでイメージアンカーに対して付加した情報を示したものです。

Act 1で7階層の情報を付加したにもかかわらず、Act 2, 3 ではそれぞれ階層が1つにとどまっています。これは、一般的はイメージから離れれば離れるほど、階層を一つ上げるのに詳細な説明が必要になるためです。

Setupを通してEPCについての情報を一気に具体化し、次のAct以降のメッセージを想像しやすくします。

Act 1 の重要なもう一つの役割はツアコンの計画性を訴求することです。EPCの活動に詳細な計画フェーズがあることを伝えると同時に、ツアコンの計画能力を伝えます。ここで計画性という概念を「調査能力」と「情報処理能力」に分解することで、この能力が研究にも活かせることを示唆しています。この言葉の分解もテクニックの一つで、ESで自己PRを書くときなどに役立ちます。多くの学生が「自分は特筆する長所がない」とか「平凡な能力しかない」という悩みを抱えますがこれは、広い意味の言葉が「思考停止ワード」となっていて、その先に思考が及んでいないことが原因です。例えば、「協調性」というワードがありますが、これは思考停止ワードであり、広い意味を持っているがゆえに解釈が千差万別の都合の良いワードです。協調性は「自分と考え方や価値観が異なる人がいることを理解している」、「相手の思考レベルに合わせた必要十分なコミュニケーションができる」、「対立した意見に対しても客観的かつ公平に検討する」などに分解できます。自分が伝えたいことを適切に言語化しなければ面接官は「自分では何も考えない、浮遊思考のひとか」と解釈され、就活鬱に苛まれた挙句、「会社は奴隷を求めてるだけ、このままでは日本は終わる」と社会について居酒屋で語るだけの人間になってしまいます。

Act 2 Confrontationの設計

脚本においてAct 2 は、主人公が相次ぐ困難を乗り越え、目的を成しとげようとする、言わばメインストーリーに当たります。Setupが事実ベースでマクロなスコープの話をしているのに対しConfrontationでは事例ベースでミクロな話を展開します。一般に就活の文書はビジネス文書の一つなので事実に基づき、客観的にかつ網羅性を持って書くのが適切とされています。一つの例外を持って何かを主張することはナンセンスとされていることもあり就活生はとりあえず3つの根拠を探したりします。しかし、「伝える」という本質にたちかえれば網羅的な統計情報や科学的な分析よりもたった一枚の写真が多くの人を動かすことがあります。これは行動経済学でも有効性が証明されています。

そこでConfrontationでは数ある旅行の数あるシーンの中から、一つのシーンを出来るだけ鮮やかに伝えます。今回はギリシャ旅行「Meteorophysical Being」の際のデルフォイへの道中を取り上げることにしました。

3 Act Structureでは、Intensity(緊張感)が最も高まるのがAct 2です(諸説あり)。そろそろ飽き始めているかもしれない読者の集中を再度高めて残りを一気に読みきってもらうために、主人公に「障害」を与えハラハラドキドキさせます。このシーンでの障害は「水と食料の不足」、「天候の悪化」および「体力の消耗」です。特に天候の悪化については「さらに当日はギリシャ全域が快晴だったにも関わらず、標高が上がるとともに天候が悪化し、急な気温の低下と雷雨に見舞われ雹までもが降ってきました。」のように時系列とともに深刻になっていく様を描くことで緊張感を少しづつ与えています。脚本においても天候は人物の心情の鏡であり、徐々に疲弊していく我々のメンタルのメタファーでもあります。

この緊張感を高めることは、推薦状の中間に差し掛かり集中力が途切れつつある読み手の関心を再度ひきつける、つまり要求1を満たすためにも効果的です。

また表現においては、対立構造で輪郭をクリアにする工夫をしています。対立(Contrast)は文章作成の古典的な方法ですが、伝えたい情報を強調する上で有効です。そもそもAct 1とAct 2は対立構造になっていますが、表現の詳細にも対立構造を散りばめています。以下に本推薦状に使用した対立構造を例示します。

対立構造は様々な場面で使用できる

Act 2ではツアコンの「判断力」(人間性)を訴求する事が骨子でしたが、「体育会系の我々」との対比や「本当は最も目的地に行きたかった本人の心境」との対比によりこれを表現しています。

Act 3 Wrap-up の設計

ここまでくると、残された時間は多くありません。シンプルにストーリーを回収していきましょう。最後にEPCが旅をする理由に触れます。このメッセージが刺さるかどうかは博打ですが、概して付け焼き刃よりも本心こそが人の心を動かします。多くの人が旅行にはいい思い出を持っているはずです。そして研究職を選ぶことは、リスクテイキングでもあります。面接官が、大学院生の

頃にしたバックパッカーや留学をした時に、不安のなかでも自分の目で新しいものやことを見たいと思った気持ちと幾分かは重なるのでは無いでしょうか。もちろん、とても保守的な面接官に眉を顰められるかもしれませんが、そもそもEPCメンバーに推薦状を依頼する彼のことです。もしそんな面接官がいるような職場なら、就職してもつらいだけでしょう。

彼の計画性と決断力について今一度触れておきます。反復は重要な技法の一つです。その時に、「命を預ける事ができる」という表現をする事で、医学とのつながりを暗示します。前述した通り、私は医学について素人ですので、権威づけをすることはできません。しかし文章に所々医療を連想させる言葉を使用することで読み手自身が好意的に解釈してくれることを期待しています。文体についてもう一つの工夫は、定量的な情報をなるべく具体的に書くことです。普段論文を読み慣れている研究者は、曖昧な表現では、定義が気になって気が散ってしまう可能性があるからです。

以上、2回構成でお送りしてきた推薦状の、かなり長文になりましたが、最後まで読んでいただいた方ありがとうございました。もしあなたが就活生ならば、本記事が少しでも参考になれば幸いです。多くの就活生が、理不尽から解放されることを願って


0 Comments

コメントを残す

Avatar placeholder

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。