「油やしと路側帯」マレーシア-シンガポール自転車旅行〜第２章〜油やしと路側帯

黄昏と街灯の明かりが交わり合うころ、私たちは初日の宿に到着した。海外の安宿は、青やピンクのネオンライトが多用されているせいか、どうしてもラブホテルに見えてしまう。
その印象は今回も同じだった。

The UniQ Hotelという名前に違わないユニークな外観だ。いそいそと中に入り、チェックインを済ませて、部屋に向かい、2段ベットが2つのドミトリースタイルの部屋であることを確認して、安堵した。

マレーシアシンガポール自転車旅行もくじ 序章　「旅に名前を付けてみよう」 第１章　「クアラルンプール国際空港からの脱出」 第２章　「油ヤシと路側帯」 第３章　「マラッカ海峡に浮かぶ海上モスク」　 第４章　「マラッカのオランダ広場でインスタ映えする写真を撮ろう！」 第５章　「油ヤシとパイナップル畑」 第６章　「ジョホールバルの歓喜をめぐる」 最終章　「シンガポール」

夕食を近くの大衆食堂でナシゴレンをかき込み、明日から本格的に始まるロングライドに期待感と憂鬱さを抱きながら各々の床に入った。

翌日の朝、現地集合のKatohと無事合流を果たす。そして、ついに本格的なシンガポールへの道のりが始まった。　今日の行程は、クアラルンプール空港周辺からマラッカまでの110㎞。　国道362号から国道1号を攻めるプランだ
海外自転車旅行で重要なのは、どの程度、道が整備されているか。　車道両端の状況、バイク・原付と自動車の比率などが評価のポイントとなる。

スタート直後、バイクレーンと車のレーンが分離されている上、マレーシア郊外のバイク、原付の交通量は台湾やベトナムと比較して少ないので、快適なオープニングとなったのだが…..。

やや都市部を離れ、道の両脇が油やし畑となり、東南アジアに来たという高揚感に胸を躍らせていた。その南国感が増すたびに、車道の幅と路側帯は狭くなっていき、道の両端の舗装が雑になってきた。

“いつか事故る”担当Katohが落車

昼食のポイント、ヌグリスンビランが近づいてきたとき、それは起こった。
チームEPCの先頭を走っていたKatohが舗装剥げに前輪を落とし、落車してしまった。

Katohはいつか事故ると8年ほど前から予見されていたが、実際に事故られてしまうとさすがにチーム内に緊張が走る。
肩からの落車だったため、ヒヤッとしたが、幸い車両の通行はなく、2次的な被害は免れることができた。
しかし、その肩の擦り傷は痛々しい。
うっぷん晴らしにIQOSをふかすKatoh。

その姿は、 苦痛とリスクを負いながらも合理性に欠いた、 五感では 知覚できない何かに意味を求める自転車旅行の本質を体現しているようであった。